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東京地方裁判所 昭和60年(モ)5336号 決定

申立人(被告) 馬渕章

相手方(原告) 日本光洋理研株式会社

右代表者代表取締役 坂本安男

右訴訟代理人弁護士 中村清

同 辻千晶

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  申立の趣旨及び理由

申立人は、申立人及び相手方に関する本件訴訟を旭川地方裁判所に移送する旨の決定を求めたが、その申立ての理由は、申立人は、相手方会社旭川営業所において相手方と商品販売預託契約を締結したが、事情を知っている右営業所所長石上勝由及び事務員は北海道旭川市に居住しており、また、申立人は北海道紋別市に居住しているが、経済事情により住居地から東京地方裁判所に出頭することが難しい、というにある。

右申立ての理由に対する相手方の意見は、別紙のとおりである。

二  一件記録によれば、本件訴訟は、家庭用・業務用調理器具等の販売を主たる業とする相手方が、申立人と商品販売預託契約を締結し、申立人に訪問販売の方法で販売を行わせ、販売に応じた手数料を交付していたところ、昭和五七年度(昭和五七年八月から昭和五八年七月)の過払い手数料(あらかじめ前払金として申立人に支払った手数料額と申立人の売上げに応じた正規の手数料額との差額)及び車使用料(相手方が申立人との賃貸借契約に基づき、訪問販売に際し賃貸した自動車の使用料)の合計が金一八九万四二一八円に達したので、昭和五七年七月二〇日ころ、申立人との間で右合計額を目的とする準消費貸借契約を締結したとして、右金員及びこれに対する昭和五九年一二月一八日以降の遅延損害金の支払を求めるものであるが、これに対し、申立人は相手方との間で納品書、発注書等をとりかわしていないので、正確な金額は分からず、相手方の請求の全額を認めることはできない旨の答弁書及び準備書面を提出していること、一方、相手方は、甲第三及び第六号証の写を提出しているが、その内容は、申立人が相手方の作成した昭和五七年度の収支確認表の各金額について検討し、これらの金額を間違いないものと認め、右収支確認表に署名、捺印したものであることが明らかである。

ところで、一件記録中の申立人と相手方との間の商品預託販売契約書写によれば、本件契約に関する一切の訴訟については、相手方の住所地を管轄する裁判所の専属管轄とする旨の合意が書面でなされていることが認められるところ、本件訴訟は右商品預託販売契約に基づく債務を旧債務とする準消費貸借契約に基づく請求であり、争点は右旧債務の存否にあるものと認められるから、右専属管轄の合意の効力は本件訴訟に及ぶものと解するのが相当である。

しかしながら、専属的管轄の合意が存在しても、訴訟の著しい遅滞を避けるという公益上の必要があるときは、民訴法三一条の規定によりこれを他の管轄裁判所に移送することができると解されるから、この点について判断するに、一件記録によれば、相手方は、本件訴訟において、当初申立人に対し、前記過払い手数料及び車使用料に加え、契約終了時の商品清算金(相手方から申立人に預託した商品中売上げ未了で返還不能の商品の販売価格相当額から販売手数料相当額を控除したもの)金一七四万八一三四円をも請求していたのに対し、申立人は、相手方会社旭川営業所閉鎖に際し、右営業所所長石上勝由から未販売商品はもう返す必要はないと言われた旨を主張して右商品清算金支払義務を全面的に争っていたことが認められ、この点につき右石上を証人として取調べる必要があったところ、その後、相手方は右商品清算金分について請求を減縮するに至ったため、右の点で石上を取調べる必要は消滅したものであるし、申立人の署名、捺印のある昭和五七年度の収支確認表が甲第六号証として提出される予定であることは前叙のとおりであるうえ、仮に相手方に対し、今後右収支確認表の基礎となった申立人に対する商品送付の明細の主張立証を求めるとしても、相手方の倒産及び旭川営業所閉鎖に伴い、証拠書類は東京都にある相手方の本店に保管されていることが明らかであるから、本件訴訟を旭川地方裁判所に移送することなく当裁判所で審理をしても訴訟の著しい遅滞が生ずるとは認め難い。

三  よって、申立人の本件申立ては理由がないから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 稲守孝夫 裁判官 木下徹信 飯塚宏)

〈以下省略〉

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